高野 誠鮮

(立正大学客員教授、新潟経営大学客員教授、妙法寺住職、総務省大臣嘱託 地域力創造アドバイザー)

「可能性の無視は最大の悪策」

小林 真理

(人文社会系研究科 文化資源学)

「地域の文化環境と地方自治体の役割:守るべきものと変えるべきもの」



予習文献

(高野先生ご指定)

高野誠鮮 『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』 講談社 2015年

(小林先生ご指定)

増田寛也 『地方消滅――東京一極集中が招く人口急減』 中央公論新社 2014年

講義後情報コーナー

履修者のレスポンス抜粋

◆高野先生の圧倒的な発想力と行動力、そしてトラブルを厭わない攻撃力の高さは本当に魅力的で、これまでの講義の中でも抜群に面白かった。言ってしまえば「命懸け」でやれば、あれくらいのことが出来るという一つの見本になった。「過疎」の解決として「ブランド化」という話は常套句として効かれるが、「ロンギング」などのあこがれを生み出すための方法として、ローマ法王という着想に至り実現する方法や、ガーディアンにプレスリリースを送って国内での評判を煽る視点など、自分がいかに普段「日本」という枠内で生活して発想しているかが省みられた。(文学部日本史学4年)

 

◆高野先生の話では、疲弊する限界集落はその地域の特色を活かし、自立した運営を行うことが大切とのことだった。小林先生の話では、地域の文化活動を支援し、人々が新旧の文化活動を享受できる環境づくりをする必要があるとのことだった。どちらも集落あるいは個人という小さな単位の存在を尊重しているが、これは第一回の赤川先生の「多様性の共生」という話と繋がると思う。これらの根本にあるのは、流通ネットワークの整備や社会規範を守る法制度など時間をかけて築いてきた様々なシステムのおかげだということで、それらの大きな約束事の中で私たちは個に没頭できている。私たちが自分らしさにこだわり、多様性を保てているのも、一部分では均一的なルールを決めているからだと感じた。 (工学部システム創成学科3年)

 

◆地方自治体のあり方について、刺激的なお話をお二方の違う角度から伺うことができた。特に、公務員を実際に経験された高野先生からの「地方自治体の役人の意識改革」のご提案は説得力があり、度肝を抜かれるものだった。「役人叩き」が長く横行しているが、それと同時に、叩く側も半分諦めているような風潮があるが、今回のお話はその暗澹たる問題の解決に光を指す内容だと思えた。(工学部機械工学科)

 

◆高野氏の講義では、理念を実際に行動に移すことの重要性を強く感じた。いわゆる従来の役所的な思考や会議中心の行動では、課題の本質を変えることはできない。一見あたりまえのように見えて見落とされがちなアントレプレナー的なマインドや思考法を役所の人間こそ身につけなければいけないと感じた。既得権益との対立にも辞さず、確立された理念から導かれるエネルギッシュな高野氏の行動力と発言には感銘を受けた。

小林氏の講義を通じては、まず「文化」そのものを扱うことの難しさを感じた。文化を権利とするならば、法律・制度面での整備が必要であるとはいえ、文化を法で規律することへの違和感を感じざるをえなかった。時代と共に文化も変化するものである以上、どのような伝統文化を守るのかという線引き、それらを判断する主体は誰なのか、といった客観的な完全な了承を得られないような問題に難しさがあると思った。(法学部3年)

 

◆政策課題へと本質的に切り込む重要性と難しさを感じた講義だった。長年続く組織を大きく変革するには当然のように抵抗勢力がつきまとい、その方々も巻き込んで計画を遂行するためには大変な覚悟と労力が必要だ。多くの課題に直面しかつ有効な解決策を見出せていない自治体において、現状への危機感を喚起し、当事者意識を高め、強力な指導者の下で一丸となり本気で取り組む体制の構築が、早急に求められる。(薬学系研究科薬科学専攻)

 

◆討議の最終とりまとめで、赤川先生が、高野・小林両先生を、「滅びようとしている豊臣政権を智謀の限りを尽くして支え、死に場所ではなく生きる可能性を求めつつ、退勢挽回を図ろうとした真田幸村」に例えていたのが、印象的であった。

高野先生の奇想天外なアイデアと仏教哲学に裏打ちされた建設的な楽天主義で、大逆転を成し遂げてきた経験談は、ドラマ以上にドラマチックであった。また、小林先生の地域に埋もれた人材の可能性を信じ、様々な支障・制約の中で、今よりは一歩でも良い方向に進めていくことを大切にしていくという姿勢にも共感を覚えた。

経済・文化振興において、地方の知識・情報・人材の不足を嘆き、安易に外部のコンサルに頼りがちな組織は少なくない。しかし、今回の講義を通じて、本当に必要なのは、黒沢の「七人の侍」を上手く利用し尽くした百姓達のような、狡猾かつ強かな地方の知恵と根性であるということを確信した。(人文社会系研究科文化資源学研究専攻M1)

 

◆高野先生もおっしゃっていた通りその土地ならではの「良さ」というものが残っていると思うので、今後地方創生分野に携わる仕事についた場合、教えていただいたような根本までつきつめる思考方法で私も「ナポレオン」になれればと思います。(法学部第二類)