第5回

 陳天璽 (早稲田大学 人類学)

「国家のはざまに生きる ― 日本の無国籍者」

国籍は、誰でも持っていて当然だと思っていないだろうか?日常において、われわれは国籍について考えることはあまりない。世界には、国籍を持たない無国籍者が1200万人ほどいると言われている。もちろん日本にも。本講義では、日本で暮らす無国籍者に焦点を当て、その原因、彼らの暮らし、さらに国家や境界について考えたい。


参考文献

・陳天璽『無国籍』新潮文庫、2011年。
・陳天璽『忘れられた人々 日本の「無国籍」者』明石書店、2010年。
・陳天璽『越境とアイデンティフィケーション 国籍・パスポート・IDカード』新曜社、2012年。
・陳天璽 「特集:「在留カード」導入と無国籍問題を考える」「日本における無国籍者の類型」『移民政策研究』移民政策学会編、Vol.5、2013年。
・Torpey. John, The Invention of The Passport-Surveillance, Citizenship and the State, Cambridge, 2000. (ジョン・トーピー著 藤川隆男訳『パスポートの発明』法政大学出版局、2008年。)

予習資料

・陳天璽 「特集:「在留カード」導入と無国籍問題を考える」「日本における無国籍者の類型」『移民政策研究』移民政策学会編、Vol.5、2013年。

・陳天璽『無国籍』新潮文庫、2011年のうち、プロローグと第7章。

 

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講義後情報コーナー

履修者レスポンス紹介

◇法学部第二類 3年
国籍の問題については今年の夏に履修していた国際法で勉強したことがあったが、
法的観点から勉強するのと実際の声を聞くのとでは大きな違いがあった。法的観点から勉強したときには決まりがあるのは当然という風に感じていたが、実際にお話を聞いてみて、行政の杓子定規な判断を腹立たしく思う場面が多々あった。
もっと柔軟に、当事者の立場に立った対応ができないものだろうかと思った。
例えば民法なら、法の一般原則といったものの適用によって当事者の立場に立った柔軟な解決が図られることが多い。そのような柔軟な姿勢が国際法や各国の国籍法にも必要になってくるのではないだろうかと思った。

 

◇文学部 フランス文学 4 年
無国籍状態とはほんのボタンのかけ違いで生じてしまうものであり、したがってそれによって被る不利益は、なんらかの形で正しく救済されるべきものであるというように感じた。国籍に「はざま」が生まれてしまうのは、現在の世界が、主権をもった国家が絶えず隣り合っているように見えることに起因すると考える。世界は国家の集合であるが、留意しておきたいのは、もともと存在していた「世界」とその住人を各国家に振り分けたのではなくて、世界のあらゆる場所において独立した意思=主権を持った国家が成立し、その取り分=国民、領土、etc. を囲い込み、それらが世界を覆うに至ったということ、この事実が持つ矛盾である。

 
◇人文社会系研究家 文化資源学修士1年
「国家のはざまでこそ生きる」日本人のM(女性)はフィリピン人(男性)と駆け落ちして結婚し、日本で子ども(男子)を出産した。(中略)その夫と会っていつも驚かされるのは、フィリピンの人々の国境のはざまでこそたくましく生計を立てていくタフネスである。(中略)彼からは「島国根性」とは違う「国」の概念、境界線があることを教えられている。

 

◇教育学研究科 大学経営・政策コース修士2年
今回の無国籍というのは、本人の望まないところで、双方の国籍条項に漏れたために「無国籍」とされてしまう悲劇が起こることに大きな問題がある。これは人災である。例えば国連加盟国の間でこのような無国籍を生まないように国籍決定のための条約とか決められないものか。現代はグローバルの時代と言いながら、前時代的な現状だ。前回までは境界を楽しむというスタンスさえあったが、今回の場合は非常に深刻な問題だ。世界がひとつの国になるのは非現実的であるならば、条約で万人がどこかの国に所属できるように人道的に決めるべきである、そう強く思った。

 

 ◇公共政策大学院 公共政策学修士2年
国籍法をより柔軟に運用していくことで無国籍の人々が救われるのであれば、 是非とも前向きに検討すべきだと個人的には考えるが、 そもそも特定の国で一定期間の生活の根拠がある場合には、 国籍あるいはそれに準ずる何らかの法的地位を与えていくことが、現実的であり、 また人権保障の観点からも望ましいのではないかと考える。
血統主義をとる日本であるからこそ、逆にそうした柔軟な運用あるいは
中間的な制度が特に求められているのではないかと感じた。