西村 幸夫

(工学系研究科 都市計画)

「都市における守るべきものと変えるべきもの」 


予習文献

1. 西村幸夫 『西村幸夫 風景論ノート――景観法・町並み・再生』鹿島出版会 2008年

講義後情報コーナー

履修者のレスポンス抜粋

◆授業と課題図書を通じて、何を都市の個性と捉えるか、どの段階・どの部分の風景をどの程度守っていくべきかという議論がまちづくりの肝要であると感じました。広島や飛騨はまちづくりの成功例ですが、かつて武家屋敷や城下町があったというだけで駅前や中心街を「江戸時代風」の色合いにしてみた結果、全国各地に似たような「歴史があるらしいけど何だかよく分からない街並み」ができ、かえってアイデンティティが損なわれたというような失敗例も多くあります。そのような失敗例では、何がその地域特有の歴史なのか、その歴史をどのように復元するのかについての議論が十分になされていなかったのだろうと思います。そして、最終的には、例えば江戸時代と明治維新期のどちらの風景を尊重するべきかというような価値判断の問題に行き着くのかもしれませんが、そこに到達するまでの議論の場を用意することが、行政や専門家に求められているのかと考えました。(法学部・第2類3年)

 

◆文系の私にとって、都市工学の話を聞いたのは初めてのことで、日本史や風俗などとも関連して考えられる学際的に面白い分野だなと思った。特に福島と広島の都市の発展のし方は対照的で、授業テーマの本質を体現しているような印象を受けた。都市こそ、常に変わりゆくものであり、白川郷のように守るべきものもあれば、討論でどこの班も「新宿は変えていい」と言っていたように最先端を行くことがアイデンティティで変わることを求められている場所もあり、考えれば考えるほど、難しい問題だ。以前ロンドンに住んでいたのだが、住宅地など落ち着いた場所は古い建物ほど値打ちがあり、再開発されている地区は最先端の建築物が並び、場所によっては歴史的建造物と新しい建築物が並んでいることもあったが、すんなり受け入れられる景観で、とても素敵な都市だと思っていた。日本も何を守りたいのか意識すれば、開発でもめることもなくなるのではないかと思う。(法学部・第1類3年)

 

◆ディベート後のフリートークの中で、「何のために都市が保存されるべきか」という話題が上り、様々な意見が出ました。「親、子、孫と文化を受け継ぐため」といった継承の観点からのポジティブな意見と、「今、その場に生きている人にとっての意義以外は無いわけで、変化し続けるべき」というラジカルな見解が別れており、どちらかと言うと後者の合理的な見方が20代前半の東大生という立場では多数になっていました。ただ、改めて考えるに「今、そこにいる人」は様々なレイヤーで区分でき、"住む"、"働く"、"遊ぶ"といった行動面でも、世代やそこにいる期間などでも、様々に分けられ、街に求めるものの価値観はそれぞれ異なります。今回のディベートでは気づきは多かったものの、多様な関係者のどこにフォーカスを当てるか、誰にとっての「東京駅周辺」を語るべきかが与件にあれば、より気づきだけでなく学びが深い内容になったか、と愚考します。(文学部・日本史学専修課程4年)

 

◆都市開発の話は、特に東京においてはある程度形式が決まったものばかり目につく気がします。少数の大企業が街づくりをするため、似たようなものになるからかもしれません。しかし、東京から目を離せば、様々な性格を持った街が存在しています。私の出身地は札幌ですが、札幌でも新しい駅舎がある一方で、道庁や時計台などの歴史的な建物もずいぶん残っています。新宿のように、ほとんどの建物が新しい街だと落ち着かない気持ちになることがあります。歴史的な建物や風情のある街づくりは、人々に落ち着きや憩いを与えているのではないでしょうか。東京駅は駅舎が古いままですが、周囲の新しい建物との親和性が図られていることにより、居心地の良い街になっていると感じます。都市計画に当たっては、一概には言えないものの、人々に落ち着きを与えうるような街づくり、変化するものと守られるものが共存する街づくりが1つの答えになると感じました。(文学部・考古学専修課程4年)

 

◆授業の後半で行った東京駅周辺の都市景観を存続すべきかというディベートでは、参加者によってかなり相反する意見があったことが意外であった。私は皇居に近接し、均衡のとれたビル街が立ち並ぶ東京駅周辺の景観は、格式高い日本を象徴する役割を果たしており、ほかの地域では代替不可能な価値を有していると考えているのだが、経済発展に応じて開発を繰り返すことでこそ、その時代に適合した都市機能を果たす街たり得るという意見と対立し、街の景観を残すことは何のため、誰のためなのかを改めて考え直す機会となった。(文学部・現代文芸論専修課程3年)

 

◆ディベート形式のグループワークは未経験で、新鮮さもあり非常に良い体験だった。両グループとも、基本姿勢として都市の変化と保存は両立しうると認識していた。意見の述べ方は異なるものの、アイデンティティ等のソフト面は残し、街全体の構成や見た目等のハード面は変えることで周辺環境の変化に対応するという意見に集約していった。どうしても知っている情報が限られており、根拠に乏しい議論だったように思えたため、その後の講評でお聞きしたように、過去と将来を分析しつつ進めることができたらより深い議論になったと感じた。(薬学系研究科・博士課程2年)

 

◆今回の話し合いで、特に印象に残ったのは「都市や建物はその時代に最適化されているものなので、歴史的な建物もその時代のなかでは最適化されたものであった」ということと「都市や建物の雰囲気がいいというのは誰がきめるのだろうか」という意見でした。都市計画は様々なことを考えていかなければならない難しいものだと思いますが、上記の2つの意見は考えていく必要があると思いました。(新領域創成科学研究科・国際協力学専攻修士1年)