第12回 神里達博

   (東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻特任准教授)

「BSEと放射能をめぐる「食」の問題-科学と政治のはざまで」

*講義タイトルは当初予定から変更されました

 

学生へのメッセージ

近年我々は、様々な「食」の問題に翻弄されてきた。現在は、「放射能による汚染」という、また新しいタイプのリスクへの対処をも迫られている。だがなぜ、我々の「食」はこうも脆弱になってしまったのか。平成の「食」を鳥瞰しつつ、いくばくかでも問題の構造を探ってみたい。


講義後情報コーナー

●履修者のレスポンス抜粋

 

◇教育学部・教育心理4年

「風評被害はよくない、被災地を応援する為に被災地のものを食べよう」と声をあげることが、事実の如何を問わず正しいことのような風潮がある、という指摘は重要な視点だと感じた。事実よりも、社会をどう操作するかにばかり目が向いている、このことは今回の災害でも、BSEでも共通している部分がある。 

 

◇教育学部・身体教育学コース3

リスク論の考え方に初めてふれたが、今の社会はこの考え方が明らかに不足しているということが実感できた。社会の発展にリスクをとることは不可欠なので、早急にリスク配分の評価方法を制度化してほしい。

 

◇法学部・第一類3

BSE問題と今回の放射能問題の共通点として、国の対応の遅れが問題の拡大を招いた点があると思います。ここには、国はそもそも国内の学者(専門家)がどのような知識・技術を有しているかを把握していないこと、そして国の危機管理が甘く、問題が起こってから対応を考え始めることになるということとの二つの問題があります。こうした状況を打開する為には、平時から様々な分野の専門家を国の人間(閣僚・官僚など)が情報を共有する場を定期的に設けることが必要だと考えます。

 

  ◇文学部・社会学3

BSEと放射能問題の類似点が多くあり、非常に興味深かったです。専門家に尋ねてもわからないことが多いと、素人との李識レベルが近寄ってしまうという話がありましたが、専門家の意味のある「推測」「勘」を民衆に伝えることも必要ではないかと思いました。

最後の「言霊」「ケガレ」などの日本人の思考スタイルの指摘は目から鱗でした。まさにその通りだとおもいます。「自らの思考スタイル」という癖のようなものを自覚するのは極めて困難だと思いますが、客観的な視点から意見を複数聞き入れることを意識していきたいと思いました。

 

◇工学部・システム創成学科3

BSEも放射能問題も、政府が国民のことを考えておらず、自分のことしか考えていないような印象を受けました。(中略)

私は言霊信仰には共感できませんでした。リスクに対処できないのは日本だけではないし、今は昔と違って海外の考え方を教養のある人なら学んできているはずです。日本のリスク対応の仕方の理由は、いきなり厳しいリスク対策をとったときに、アメリカほどのパワーのない日本の社会は動きが止まってしまうからではないかと思います。