藤本 隆宏

(経済学研究科 ものづくり経営研究センター)

「現場から見る日本産業の過去・現在・未来」


予習文献

  1. 藤本隆宏 『ものづくりからの復活―円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社 2012年.

 

講義後情報コーナー

履修者のレスポンス抜粋

造船業や繊維業の現場の話はとても興味深く、辛酸をなめた経営者と現場がそれを乗り越え、労使関係を超えた信頼関係にあるからこそ生まれる良い設計の良い流れで、グローバル競争に打ち勝っていくのだと思った。資本主義に対して生活者主義が拮抗し、そこに第三のファクターとして現場主義が介在することで日本はグローバル競争に立ち向かえるのである。現場が企業に利益貢献し、地域の雇用を支え、産業に付加価値を提供する形で日本経済を下支えしているという見方は、現場に密着した藤本先生だからこそのもので、非常に説得力があった。また、大量の移民によって発展したアメリカは分業によりシンプルなモジュラー型の製品を得意とする一方で、移民の力を借りることなく高度経済成長を達成した日本は、分業の余裕がなく、多能工が発達し、複雑なインテグラル型製品を得意としたという話を聞き、近年の日米の経済競争には歴史的背景があると知ることができた。(法学部・第2類3年)

 

工学部の学生として、現場から見たものづくりのお話はとても刺激を受ける内容だった。現在住んでいる川口市が機械産業が活発で、旋盤やボール盤が工場のそとから見えて、見学させてもらったことが何度かある。意外なところでは、そういった関係で外国人移民労働者も多く居住していらっしゃるようである。地域に根付く職業ならではの可能性の一つの例である。前回の地方の講義とも合わせてだが、やはり「産業」の、街に対する影響力は大きく、本当の意味での町おこしは産業なしにはあり得ないと思う。講義でもあった「トヨタ式」のお話のように、経済衰退の叫ばれる昨今、誠実さを主とする日本独自の文化に由来する、ものづくりの「打たれ強さ」こそ、世界に発信していくべきだと思う。そしてさらには、日本に限らず、世界的に、お金でお金を生むような「虚の経済」ではなく、もう一度実体のある「ものづくり」がスポットを浴びるべきではないだろうか。(工学部・機械工学科3年)

 

各班でのグループワークの結果発表を聞き終えたあとに、藤本教授は「新聞などを読めばわかることばかりで、学生は現場についての理解がまだまだ足りていない」と仰っていたが、それはまさに自分がグループ内で話しているときに嫌でも気付くことでもあった。班内には「近くに中小規模の工場は殆どないため、話せることは少ない」という人が数人いたが、おそらく彼らにはそのような工場が見えていないだけか、余りにも狭い範囲の地域にしか関心を払っていないかであろう。受講生にとっては、現場に赴いて体感知を得ることが理解を推し進めることを知る好機となったはずだ。藤本教授は現場を見ることに加えて、そこで働く人の声に虚心坦懐に耳を傾けることで、現場によって千差万別な環境や歴史を知り、強みを見抜いていく手法を取られていたが、その多面的で鋭い分析力は、研究対象である経営者たちとも通ずる部分が多いように思えた。(文学部・現代文芸論専修3年)

 

藤本教授が何度もおっしゃられた現場の重要性というのは非常に共感できるものであった。というのも、私自身、学部時代(農業経済)の卒業研究のフィールドワークで、現場の重要性を痛感していたからである。その研究では地域ブランド振興がテーマであり、その地域ブランドはある中小企業の社長の熱い思いで始まった食品開発なのだが、最終的にその地域一帯のあらゆるステークホルダーを巻込む一大プロジェクトとなり、協同組合まで設立され、大きな需要を創出した。この成功要因は、現場感覚に優れた社長がステークホルダーとネットワークを形成・利用し、新規需要創出とコスト削減を両立させたことであった。今回のグループワークでも感じたが、このような街全体を巻込む仕組みづくりを志向することが、衰退しつつある地域産業を復活させる鍵となるのではないだろうか。大事なことはハード面ではなく、意外にもソフト面の人材やパッションにあるのだ。(公共政策学教育部・公共政策学専攻2年)